IDESコラム vol. 28「“flu jab”を受けてきました」

感染症エクスプレス@厚労省 2018年11月16日

IDES養成プログラム3期生:市村 康典

 こんにちは。市村康典です。
 私は、IDES養成プログラム2年目として、現在英国にあるイングランド公衆衛生庁に勤務しています。イングランド公衆衛生庁は、イングランドと付いているものの、英国全体での感染症をはじめとする公衆衛生の改善を目的とした執行機関であり、日本の厚生労働省に相当する保健社会福祉省(DHSC)に対して、専門的な見地を活かして技術的支援等を行っています。その勤務のため、この春より、英国に引っ越しました。英国での生活は初めてであり、戸惑うことも多くありましたが、徐々に慣れてきています。私が住んでいるロンドンも寒くなってきております。日本でも、徐々に寒い日も出てきて、秋が深まってきているのではないでしょうか。そろそろ、インフルエンザが流行する時期も近づいてきています。インフルエンザの流行は世界的には、地域によって異なり、4~8月に流行を認める地域もあります。英国では、インフルエンザに関していくつかの統計データ(症候群サーベイランス、ウイルス学的サーベイランス等)が発表されていますが、日本と同様、冬に流行しています。
 英国や米国では、インフルエンザのことを”influenza”と言うことは、実は少なく、”flu”ということが一般的です。インフルエンザ予防接種のことは、米国では、”flu shot”と言うようですが、英国では”flu jab”と言います。この英国では、”flu jab”が実は、日本とは違う形で行われていることを知りました。
 この”flu jab”は、北アイルランドを除いた英国の国民保健サービスであるNational Health Service(以下NHS)に加入している高齢者、慢性疾患または免疫不全等をもつ人、妊娠中の女性、特定の年齢の子ども、医療従事者等には任意接種として無償提供されています。外国人の私でも一定期間以上滞在する場合等にはNHSに加入することになります。上記対象者以外は、プライベート医療サービス等で”flu jab”を受けることができます。
 英国では、NHSで”flu jab”を受ける場合には、成人では主に3つの選択肢があり、自分で選ぶことができます。(1)NHSのかかりつけの家庭医(General Practitioner:GP)、(2)”flu jab”を実施している薬局 (3)妊娠している女性に対しては、助産師サービス(”flu jab”を実施している場合)。 このうち、(2)の薬局では、要件を満たした薬局で基本的に成人に対して研修を受けた薬剤師が接種を行います。英国の薬局の多くは、NHSの無償提供対象ではない人に対しても、プライベートサービスとして自費での接種をも提供しています。全国展開している大手薬局チェーンでも予防接種を提供しており、最近では町の薬局には”flu jab”と大きく宣伝が掲げられています。また、薬局での”flu jab”は予防接種率にも貢献しているようです。インフルエンザ予防接種率(65歳以上の高齢者)を見てみると、我が国では51.0%(2015年、OECD)であるのに対して、英国では72.6%(2017-8年、イングランド公衆衛生庁)であり、このうち9.8%は薬局で接種していますが、薬局での接種率は年々上昇傾向とのことです。
 私は、現在の勤務地での集団接種で”flu jab”を受け、妻も自費で受けることにして接種場所をいくつか探しました。自宅の横にある薬局では、”flu jab”の貼り紙がたくさん貼られており、自宅に近いという理由で、この薬局で受けることにしました。そこでは予約なしで、すぐに予防接種を受けることができました。レジでの支払い後、薬剤師による問診と予防接種となり、薬局への入店から接種まで、15分もかからず、あっという間に手軽に受けることができたことに驚きました。妻の話を聞いてみると、最初は、日本では薬剤師に接種されたことがなかったので不安を感じるも、担当の薬剤師の丁寧な説明で安心できたようです。とはいっても少しの緊張はあったようですが、接種はあっという間で痛みもなく、無事に終えました。日本では接種後、アナフィラキシー様症状などが起こる恐れがあるため、一定の時間(30分間程度)医療機関内で待つ場合が多いかと思いますが、こちらでは何かあれば連絡するように伝えられたのみで待機することはなく、そこに違いも感じました。
このように、”インフルエンザ予防接種”を通しても、予防接種の方法には様々な選択肢が用意されていて、医療へのアクセスに配慮されていることに気づかされました。英国の公衆衛生も、ワクチンへのアクセスやこれに関連する情報を含めて、多くの人々の身近にサービスを届けるよう工夫しているのだと思います。
 日本でも、公衆衛生のため、このメールマガジンやtwitterなどで、多くの方々に情報を届けるよう日々試行錯誤しております。本メルマガをお読みいただいている皆様におかれましては、メルマガに書かれていることをご活用いただき、より多くの方々にも情報を伝えていただけますと幸いです。
  これからインフルエンザをはじめとして感染症が流行しやすい季節を迎えます。予防のために、「手洗い」や必要に応じたインフルエンザ予防接種、咳くしゃみがでる場合には「咳エチケット」、体調を崩した場合には無理せず安静にして治すことが基本だと思います。
 残り少ない2018年、日本の皆様が、感染症にかからず健やかに過ごされる事を英国から祈っております。
 
参考資料 
・OECD インフルエンザ予防接種率https://data.oecd.org/healthcare/influenza-vaccination-rates.htm
・Seasonal influenza vaccine uptake in GP patients: winter season 2017 to 2018
https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/710416/Seasonal_influenza_vaccine_uptake_in_GP_patients_winter_season_2017_to_2018..pdf
(編集:成瀨浩史)

●当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
●IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で3年前の平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。
 
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